和歌と俳句

梅雨

あをあをと墓草濡るる梅雨入りかな 蛇笏

夕昏るる梅雨の聖母に見惚れけり 蛇笏

昼風呂に久しくは居る梅雨を侘び 草城

梅雨荒し泰山木もゆさゆさと 草城

空腹に梅雨のかみなりひびくなり 草城

梅雨茫茫生死いづれもままならず 草城

荒梅雨のひびきを薄き胸に受け 草城

粥の座のきびしき顔の梅雨童子 静塔

梅雨ふかし猪口にうきたる泡一つ 万太郎

あけてある雨戸一枚梅雨の宿 万太郎

ひそかなる恋そのままに梅雨に入る 信子

梅雨の窓電柱いつも月隠す 信子

梅雨昏し死魚洗はるるを見下せる 信子

梅雨ひと日にんげんの声のがれたし 信子

わが黒衣かけしひと日の梅雨の壁 信子

>梅雨の夜のひとづまならぬわが熟睡 信子

夜よりも昼のはかなき梅雨の寡婦 信子

絢爛とひとに訪はれし梅雨の寡婦 信子

北海の梅雨の港にかかり船 虚子

難航の梅雨の舟見てアイヌ立つ 虚子

ごんごんと梅雨のトンネル闇屋の唄 三鬼

梅雨の地にめり込む杭を打ちに打つ 三鬼

梅雨ひと日夫より外に男見ず 波津女

梅雨の夜の痰壺さがす手をのばす 波郷

中心に仏の微笑梅雨かこむ 不死男

濃く淹れし緑茶を所望梅雨眠し 虚子

梅雨眠し安らかな死を思ひつつ 虚子

といふ間に用事たまりて梅雨眠し 虚子

玉葱をつりても梅雨に入りにけり 万太郎

梅雨の傘かたげしうしろすがたかな 万太郎

わだつみの底ひもしらず梅雨静か 石鼎

梅雨の妻いまにして女の一生読む 誓子

人の香の人を包めり梅雨暗し たかし

喉責めて梅雨の深夜も痰を吐く 波郷

梅雨の朱き蛇目傘に妻が隠れ来ぬ 波郷

梅雨の夜の雨音よ胸のラッセルよ 波郷

暗黒にそそげる梅雨は子をへだつ 波郷

梅雨の坂人なきときは水流る 三鬼

異国米梅雨の炊煙伏しに伏す 楸邨

傘さして梅雨にしたしき芭蕉像 蛇笏

泥炭の怒る流に梅雨細し 三鬼

川に芥押し流れゐて梅雨の町 綾子

理髪屋の鏡のみどり梅雨親子 綾子

夜の腕にかげろふ触れし梅雨入かな 波郷

身もて蔽ふ咳く幼兒に梅雨嵐 蛇笏

梅雨明り黒く重たき鴉来る 三鬼

鶏声まちまち梅雨の午刻のみだれたる 草田男

濡れる蓋梅雨の釜焚く他人の母 草田男

有刺鉄線ゆるめず梅雨の療養所 波郷