和歌と俳句

原 石鼎

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青桐の幹あをみ来し若葉かな

雀の瞳たしかに見えし若葉かな

鴉一羽やすけく過ぎし若葉かな

下り葉の青葉をつつみ庭若葉

霧島のいつしか咲きぬ若葉庭

閨よりも厠明さや明易く

青小梅庭一面に落ちにけり

相模灘しづまる闇に時鳥

埴安の神を畏れみ水を撒く

埴安の神へかなかなあけくれに

青柿の落ちて亀裂や草の中

あらん限りのもてなしの蚊帳吊りにけり

蚊帳畳んで朝まだき別れ告げにけり

近き海を忘るるほどの若葉かな

明け易き戸の縁と思ふかな

明易く夫人と妻の顔二つ

このごろの真烏賊の新味初鰹

あだ花か知らず胡瓜の黄なる花

苗にして胡瓜に黄なる花ひとつ

わだつみの底ひもしらず梅雨静か

子鴉の大きく育ち飛びにけり

平明の蝶ねむり居り青薄

一と夜さの蚊帳とはせざり妻と寝て

蚊やり香夫婦の中に置きにけり