和歌と俳句

原 石鼎

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かゝる夜の雨に春立つ谷明り

山国の暗すさまじや猫の恋

雪解の峠の茶屋の戸口かな

残雪や峯たそがるゝ藪の上

涙目に見ありく背戸や蕗の薹

黄梅や白雲杉にこぞる村

やまの娘に見られし二日灸かな

春雨や山里ながら広き道

或時のひまなし淵の面

杣が戸の日に影明き木の芽かな

谷杉の紺折り畳むかな

杉の葉をふすべて廚に あり

或夜月にげんげん見たる山田かな

虎杖に蜘蛛の網に日の静かなる

鶯の檜山に来なく四月かな

山寺の鐘に日当る四月かな

春の夜をうつけしものに火消壺

風呂の戸にせまりて谷のかな

花影婆娑と踏むべくありぬ岨の月

花会式かへりは国栖に宿らんか

や杣衆が物の置所

高々とこゆる谷の深さかな

やま人と蜂戦へるけなげかな

杣が蒔きし種な損ねそ月の風

石楠花に馬酔木の蜂のつく日かな