かゝる夜の雨に春立つ谷明り
山国の暗すさまじや猫の恋
雪解の峠の茶屋の戸口かな
残雪や峯たそがるゝ藪の上
涙目に見ありく背戸や蕗の薹
黄梅や白雲杉にこぞる村
やまの娘に見られし二日灸かな
春雨や山里ながら広き道
或時の燕ひまなし淵の面
杣が戸の日に影明き木の芽かな
谷杉の紺折り畳む霞かな
杉の葉をふすべて廚に 蕨あり
或夜月にげんげん見たる山田かな
虎杖に蜘蛛の網に日の静かなる
鶯の檜山に来なく四月かな
山寺の鐘に日当る四月かな
春の夜をうつけしものに火消壺
風呂の戸にせまりて谷の朧かな
花影婆娑と踏むべくありぬ岨の月
花会式かへりは国栖に宿らんか
囀や杣衆が物の置所
高々と蝶こゆる谷の深さかな
やま人と蜂戦へるけなげかな
杣が蒔きし種な損ねそ月の風
石楠花に馬酔木の蜂のつく日かな