雪解や西日かがやく港口
藻に浮きて背筋光れる 蛙かな
朧さは大社の松に鳴く蛙
蛙なくや田に落ちてある湯殿の灯
月隠す雲の朧や大社
接木してこち向かぬ父あはれかな
鶯やわかれをつぐる奥納戸
故郷去るや眼に一瞥す紙鳶
松原の空の広さやいかのぼり
水上に秩父大きく笑ひけり
入口に孟宗藪や春の山
芝に落つ我が影小さし春の山
藪枯れし岸を浸すや春の水
あるじよりかな女が見たし濃山吹
山吹や雨にくだくる手紙屑
亀山の谷々に見し木の芽かな
残雪にかゞやく日ある谷間かな
月夜かと薄雪見しや夜半の春
雛壇を濃うして灯ある起居哉
白酒に羽織重ねても孤りかな
われを刺す眦に在り濃白酒
鶺鴒を追ふ烏あり春の雪
旭に飛べる鴛鴦見たり甲斐の春
激湍に舟笹のごとし峡の春