和歌と俳句

原 石鼎

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雪解や西日かがやく港口

藻に浮きて背筋光れる かな

朧さは大社の松に鳴く蛙

蛙なくや田に落ちてある湯殿の灯

月隠す雲のや大社

接木してこち向かぬ父あはれかな

やわかれをつぐる奥納戸

故郷去るや眼に一瞥す紙鳶

松原の空の広さやいかのぼり

鎌倉の飯屋に食ひし田螺かな

水上に秩父大きく笑ひけり

入口に孟宗藪や春の山

芝に落つ我が影小さし春の山

藪枯れし岸を浸すや春の水

あるじよりかな女が見たし濃山吹

山吹や雨にくだくる手紙屑

亀山の谷々に見し木の芽かな

残雪にかゞやく日ある谷間かな

月夜かと薄雪見しや夜半の春

雛壇を濃うして灯ある起居哉

白酒に羽織重ねても孤りかな

われを刺す眦に在り濃白酒

鶺鴒を追ふ烏あり春の雪

旭に飛べる鴛鴦見たり甲斐の春

激湍に舟笹のごとし峡の春