ほのぼのと深き蜆や水の底
薮かげにぬるる井桁や春の雨
巣燕にランプ淋しや峠茶屋
磯畠に高々と見し燕かな
花の戸の奥に行き交ふ燕かな
暁の大地鎮めて木の芽かな
枯蔭にかくれて赤き椿かな
青天にむらがり赤し岩椿
蝶鳥に八重褪せそめし 椿かな
落椿に根のごと生えて蝌蚪うごく
森を出て妙にも白し春の月
遅月のほのぼのとして桜かな
囀や鵄尾を抱きて枯るゝ杉
菜の花に沈む蝶あり道坦々
青天の蔓にわかれし蝶々かな
曇日に木瓜震はせて蜂這へり
木瓜を落ちて震へる蜂のよれ羽かな
日にとんで翼うれしき雀の子
枯草にかゞやく日ある雪解かな
かたまれる蝌蚪の真中へ落椿
蛙子のしりへに侍る鰌かな
円かさは石鹸玉人を上る時
残雪に草醒めてあり里灯る
寄る船へしぶき打ち上げ東風の岩
藪かげに枇杷の長葉や春の風