和歌と俳句

梅雨

鍬の柄土間に汗かき梅雨に入る 風生

梅雨籠りして常のことを常のごと 風生

方丈と庫裡とに継ぎ目梅雨の漏 青畝

荒梅雨や石の小ささに名を刻み 汀女

あごがくと鳴らしあくびし梅雨無聊 立子

植込に降り込められて梅雨の蝶 立子

桟橋の断れて溺るる梅雨の湖 風生

考の二転三転梅雨豪雨 立子

笛の音の長梅雨の家洩るるなり 林火

梅雨の窓餌を欲る鳩が暗くする 汀女

出羽の禰宜旅をいざなひくるる梅雨 爽雨

注射百本梅雨はまだまだ明けぬかな 林火

つながれて流木梅雨になじみけり 双魚

天気図の皺くしやくしやに梅雨くらし 風生

梅雨の窓開けて市井の物音を 立子

夫々の心に眺め梅雨の蝶 立子

梅雨の蝶雨の小やみの明るさに 立子

電話鳴る大きな音や梅雨籠 立子

梅雨ひろふ原爆の土ひとかけら 楸邨

梅雨さむし鬼の焦げたる鬼瓦 楸邨

荒梅雨や一日無言の手習ひ童子 鷹女

梅雨さむし赤い鼻緒にすげかへて 双魚

出羽の禰宜旅をいざなひくるる梅雨 爽雨

塔あふぐ梅雨も五重にそそげるを 爽雨

墨するといへば弔文梅雨長し 爽雨

梅雨谷の電線長く大たるみ 静塔

草葉にて御岳の梅雨うくる音 静塔

青梅雨の瑞巌寺杉ふすまのみ 爽雨

梅雨ふかき訃音は朝と夕のもの 爽雨

身一つに耐ふ人の訃と梅雨寒と 爽雨

腰湯して気遠くなりぬ梅雨の底 林火

一つ見れば梅雨の石ころ神籠石 楸邨

梅雨つづく起てる薬は無いものか 不死男