餅搗の折りては噛みぬ軒氷柱
大鴨をどさと投げだし餅を啖ふ
羽抜鶏逃げそこなひし口ひらく
ふくら雀か河豚かふくるるものはたのし
残る日のほのぼのうごく皹の中
寒雀一羽が日暮負ひにける
芹の根も棄てざりし妻と若かりき
春藻ひとすぢ古利根川に見て帰る
身の匂ひ蓬に負けず恋少女
蝶孵り舞ふまでの時ふくらみぬ
おぼろ夜の鬼ともなれずやぶれ壺
落花一片くらがりにきてひとり舞ふ
ひとりをり身の内そとに蝶舞ひて
おぼろ夜の鈴か我かが鳴りにけり
朧なる犬がよぎりぬ夜の魚を
梅雨ひろふ原爆の土ひとかけら
梅雨さむし鬼の焦げたる鬼瓦
薔薇のかげまぼろしはみな手を伸べて
薔薇に立つ過ちは誰が過ちぞ
蜜柑買ひて爆心踏むよ一女体
苺ぬすみてくろかみ乙女詩碑のかげ
石が石を呼び今年竹雲を呼び
虫籠の一脚折れて南風の中
熱の目に旅のどこかの朴の花
口見えて世のはじまりの燕の子