和歌と俳句

加藤楸邨

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餅搗の折りては噛みぬ軒氷柱

大鴨をどさと投げだし餅を啖ふ

羽抜鶏逃げそこなひし口ひらく

ふくら雀か河豚かふくるるものはたのし

残る日のほのぼのうごく皹の中

寒雀一羽が日暮負ひにける

芹の根も棄てざりし妻と若かりき

春藻ひとすぢ古利根川に見て帰る

身の匂ひ蓬に負けず恋少女

蝶孵り舞ふまでの時ふくらみぬ

おぼろ夜の鬼ともなれずやぶれ壺

落花一片くらがりにきてひとり舞ふ

ひとりをり身の内そとに舞ひて

おぼろ夜の鈴か我かが鳴りにけり

なる犬がよぎりぬ夜の魚を

梅雨ひろふ原爆の土ひとかけら

梅雨さむし鬼の焦げたる鬼瓦

薔薇のかげまぼろしはみな手を伸べて

薔薇に立つ過ちは誰が過ちぞ

蜜柑買ひて爆心踏むよ一女体

苺ぬすみてくろかみ乙女詩碑のかげ

おのれまげねばこの夏草墓の列

石が石を呼び今年竹雲を呼び

虫籠の一脚折れて南風の中

熱の目に旅のどこかの朴の花

口見えて世のはじまりの燕の子