日本にこの生まじめな蟻の顔
憎まるるのみの華麗をやまかがし
百合の終りはおのが重さの終りにて
蛇見るや弱き女の目となりて
雁わたる草根木皮みづみづと
若き日は死も栄えなりき曼珠沙華
ひぐらしを聴かである日は阿修羅かな
秋晴の逃げそこなひし客地獄
わが闇は柿の匂ひの夜の灘
歯をもつてぎんなん割る日本の夜
玄海やデッキに落ちし渡り鳥
月をみてふと大顎のうごきけり
霧冷えの大きな臍を持ちて老ゆ
靴の中に幾万の足秋の暮
騒然として顔のある無月かな
流れ霧のみつるつるの撫で仏
露骨にて死に遠き顔月さがす
酒飲めぬ目にただの野の秋の暮
若し鳴かば妻帰るべしみそさざい
鵯去つて甲斐に消えゆく雨の谿
うれしくてきんかんとなるまで待てず
若き日のちちにははゐて梅もどき
生れきし日のごとし拳雪にひらく
貝の口いつせいに閉づ氷柱落ち