かけはしはしぐれて越えぬ亡き顔と
葬り沢しぐるる声を持ちて過ぐ
高速路月と風船ころげ去る
死に近き蟷螂闇をかきむしり
水底の石の刃の冷え夜明前
雪沓を献げて神と雪を待つ
竹の青直下す冬の煙立ち
鮠の背の雪待つ黝さ進みをり
柿啖ふ狢は人に育てられ
「かんじき」と「はつぱき」並べ雪待つ子
吊るされて玻璃透徹の「しぶがらみ」
笹鳴やまたぎて知りし一墓標
元日の虹は氷を出でざりき
春著の子なかなか笑顔できぬかな
息抜けば子の独楽がまづ倒るべし
鶲来て透明な水頭を流る
石が過ぎ夜が過ぎ冬の墓が過ぎ
赤き木瓜揺れをはり我揺れゐたり
おぼろ夜のおぼろに見えて探しもの
いとけなき陽炎のぼる象の尻
菜を過ぎて過去の黄どつと溢れたり
桃に立ちひとは姙るこのまひる
馬がゐて木の芽の中の肋骨
くすぐつたいぞ円空仏に子猫の手
生れたる猫の子われの膝と逢ふ