和歌と俳句

加藤楸邨

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どもをあはれあはれと潰しをり

すれちがふ水着少女に樹の匂ひ

妻の背の百合の花粉は告げざりき

につぽんの日暮蝙蝠の耳やさし

寝冷して書きし字なればもう書けず

ががんぼ過ぎすぐに蟻来るひげふりて

邯鄲の細音たどれば潮の音

邯鄲の一つにすがり他は棄つる

たそがれの視野すぼまりて柿一つ

脳中に鋼の論理雁わたる

苦瓜を噛むや満月空を駈け

につぽんの虫鳴く原爆図のそとにて

満月や電話にくくとひとの妻

邯鄲のいただきに生の声落す

楮晒す声の終りの水の音

夕映のさしゐたりけり柿むけば

豆煎ると豆の混沌とどまらず

葱の香がして風邪癒ゆる青畳

初日さすことも劫火の底の底

古手毬待てば湧く唄口の内

妻が待つ継ぐもののなき手毬唄

恋猫が過ぎてあをあを青畳

山繭や底の消えたる地獄谷

おぼろ夜のきりりと鳴りし馬の顎

菜の花に疲れてをればみな昔