和歌と俳句

加藤楸邨

血曼荼羅冬日に燃ゆる仏あり

天の川戦争を忘れゐしにあらず

戦死報昆虫の翅高く光り

蝉の子に父還るべき夏きたる

梅雨の雷ドア音なくしてひらく

離郷の目に畦あり曼珠沙華が咲き

言葉なし枯木幾度かほとりを過ぎ

ひと征きて寒き風塵日日街に

外套の襟立てて世に容れられず

我に子にかの枯木星名はなくとも

つぐのみ何か訊きたき顔は見ず

卒業期征きしは今も還るなく

外套を脱ぎしが壁の影も脱ぐ

十二月都塵外套をまきのぼる

英霊車冬木は凭るにするどき青

金剛の雪解ひまなしおもふとき

海越ゆる一心セルの街は知らず

木曾谷の木魂の寒さ相よべり

山ざくら石の寂しさ極まりぬ

兜虫視野をよこぎる戦死報

梅雨の間の夕焼誰ももの言ひやめ

蝸牛いつか哀歓を子はかくす

セルの肩かへりみしときなほ落暉