和歌と俳句

冬木立

武蔵野のどこまでつゞく冬木かな 花蓑

つらつらと見上げて高き冬木かな 花蓑

いただきのふつと途切れし冬木かな たかし

枝をさしのべてゐる冬木 山頭火

鵯の落ちこんでゆく冬木かな 素十

大いなる冬木の影をふりかむり 立子

白雲と冬木と終にかかはらず 虚子

自動車の光さしこむ冬木立 泊雲

たらちねのもとの冬木のかく太り 汀女

大空に風を裂きゐる冬木あり 鳳作

黄金の旭日庵の冬木かな 石鼎

光芒を下へ日の出や冬木越 石鼎

冬木照り野の寂寥のあつまりぬ 楸邨

冬木立何処よりかも礫かな 汀女

かへりみて歩をうながしぬ冬木中 汀女

相見ざる人居て冬木暮れきらず 楸邨

風邪の床一本の冬木目を去らず 楸邨

顔顔の中冬木ありてうち揺られ 楸邨

大学のさびしさ冬木のみならず 楸邨

わが凭りし冬木戦車の音となる 楸邨

戦報絶え日日の冬木と青空のみ 楸邨

卒然と没日をあびぬ冬木の中 楸邨

没日消え冬木の高さのみとなる 楸邨

英霊車冬木は凭るにするどき青 楸邨

雲とほき冬木の幹をゆさぶれり 鷹女

あたりもの無くなり立てり大冬木 汀女

おのおのや子をいたはりて冬木道 汀女

冬木切り倒しぬ犬は尾を垂れて 虚子

砕かるる冬木は鉈の思ふまま 虚子

いまははやいろはもみぢも冬木かな 青邨

もの音に冬木の幹のかかはらず 素逝

はなしごゑ冬木の幹につきあたる 素逝

立ち掴む冬木の梢星降り来 楸邨

冬木影塀にうすれて妻かへる 不死男

歳月の獄忘れめや冬木の瘤 不死男

月すでに窓に廻りぬ冬木立 占魚

皿のごとき港見下ろす冬木の坂 林火

鼻白む冬木見てゐて暮れしとき 林火

しづかにも年輪加ふ冬木かな 林火

電柱と冬木のみなりあゆみゆく 波津女

二冬木立ちて互にかゝはらず 虚子

女侘し冬木を恋へど片恋の 鷹女

冬木よぎるときつぶやきとなりにけり 林火

根を張りてやすらぎゐるや大冬木 林火

冬木より痒がる孤児の影が濃し 不死男

冬木一本立てる尾上の日を追へり 亞浪

冬木立汝来しかと雫打つ 草田男

わが書架へ午後は冬木の影二本 林火

我こゝにかくれ終りし大冬木 虚子

妻とわれに垣の内外の冬木かな 石鼎

昏れて無し冬木の影も吾が影も 鷹女

終止符をこころに遠く冬木立 鷹女

たそがれの静けさ添はず冬の木々 石鼎

凭れたる冬木我よりあたたかし 楸邨

大冬木浄きベッドに手を伸す 静塔

冬木立つ暮しの裏のさびしさに 汀女

界隈の冬木わが家の木も加ふ 林火