高浜虚子
村の名も法隆寺なり麦を蒔く
冬の山低きところや法隆寺
山眠る中に貴船の鳥居かな
町と共に衰へし寺や除夜の鐘
からからと寒が入るなり竹の宿
雑炊に魂入るや寒の内
茶の花や黄檗の僧今は誰
山茶花の掃き集めあるは夥し
宿屋出て銭湯に行く時雨かな
年若き人に誠の時雨かな
忘れもの尚ある茶屋や枯柳
煮ゆる時蕪汁とぞ匂ひける
大寺や庫裡は人の世鷦鷯
庭にこぼす十能の火や鷦鷯
病める子の足のせ眠る湯婆かな
年々に松うつ柱古りにけり
今年も古き暦と忘れけり
雪模様枯木の中を通りけり
石段の深雪見上げて拜みけり
兄病みて我方外の寒さかな
宇治寒し名所も見ずに煮売屋へ