爐開きや蜘動かざる灰の上
茶の花に暖き日のしまひかな
糟糠の妻が好みや納豆汁
鮟鱇鍋箸もぐらぐら煮ゆるなり
又借りの釈迦八相や冬ごもり
書中古人に会す妻が炭ひく音すなり
小説に己が天地や爐火おこる
寒夜読書何か物鳴る腹の底
銭湯に人走り入る冬の月
石段を上る人無し杉の雪
初冬や假普請して早住めり
降り出すや傘さしかけて莖洗ふ
鹽じみて幾夜経にけん莖の石
川下は藍流す川や莖洗ふ
兄弟の心異る寒さかな
山門に即非の額や山眠る
八瀬の里眠れる比叡の麓かな
温泉の宿や障子の外に眠る山
炭をもて炭割る音やひびくなり
炭出しに行く炭部屋や雪の中
俵より炭うつす大火鉢かな
夜晴れて朝又降る深雪かな
雪深し社の裏の茶屋二軒
傾きし木部屋悲しや雪の家
雪掻くや行人袖を拂ひ過ぐ
春待つや竹の里歌稿成りぬ