うき時は灰かきちらす火鉢哉 青蘿
ぼんのくぼ夕日にむけて火鉢哉 一茶
大寺や主なし火鉢くわんくわんと 一茶
客僧の獅噛付たる火鉢哉 漱石
冷たくてやがて恐ろし瀬戸火鉢 漱石
親展の状燃え上る火鉢哉 漱石
寄り添へば冷たき瀬戸の火鉢かな 漱石
灰に書く女名前も火鉢かな 龍之介
あぢきなく灰のふえたる火鉢かな 碧梧桐
酒を置いて老の涙の火桶かな 碧梧桐
屋根の上に月ありと知る火鉢かな 禅寺洞
煙管たたけば寂しき音と火鉢撫づ 山頭火
きぬぎぬの眼を落としたる火鉢かな 石鼎
中庭の棕梠竹よ火鉢の用意 碧梧桐
職を抛つ汝にありし火鉢かな 橙黄子
親を離れた君を無造作に迎へて火鉢 碧梧桐
酔うことの許されて我正しき火鉢 碧梧桐
最後の話になる兄よ弟よこの火鉢 碧梧桐
火鉢にかざす手の中の我が指の骨 亞浪
誰もゐねば火鉢一つに心寄る 亞浪
大いなる手に火のはねる火鉢かな 普羅
火鉢抱いて瞳落とすところ只畳 石鼎
鉄瓶の沈みて見ゆる火鉢かな 石鼎
今生けし紅葉に遠き火鉢かな 石鼎
片肱を机に置いて火鉢かな 石鼎
窓の日をのぼる埃や桐火鉢 石鼎
眉根よせて文巻き返す火鉢かな 久女
かぶさりて火を吹きをるよ大火鉢 青邨
小さい火鉢でこの冬を越さうとする 放哉
うるさき子遠ざけもせで火鉢かな 橙黄子
ひげがのびた顔を火鉢の上にのつける 放哉
酔ふわれにしかと妻居る火鉢かな 月二郎