和歌と俳句

海鼠 なまこ

いきながら一つに冰る海鼠哉 芭蕉

尾頭のこころもとなき海鼠哉 去来

釣針の智恵にか ゝらぬ海鼠哉 也有

大鼾そしれば動く海鼠かな 蕪村

生海鼠にも鍼こころむる書生かな 蕪村

くらきよりくらきに帰るなまこかな 暁台

胴切にしもせざりける海鼠かな 太祇

身を守る尖ともみえぬ海鼠哉 太祇

爼板に這ふかとみゆる海鼠かな 太祇

活て居るものにて寒き海鼠哉 几董

浮け海鼠佛法流布の世なるぞよ 一茶

砂の中に生海鼠の氷る小ささよ 碧梧桐

天地を我が産み顔の海鼠かな 子規

混沌をかりに名づけて海鼠かな

無為にして海鼠一万八千歳

海鼠哉とも一つにては候まじ 漱石

古往今来切つて血の出ぬ海鼠かな 漱石

西函嶺を踰えて海鼠に眼鼻なし 漱石

何の故に恐縮したる生海鼠哉 漱石

古への冕の形を海鼠かな 碧梧桐

海鼠あり庖厨は妻の天下かな 碧梧桐

手にとればぶちやうはふなる海鼠かな 虚子

市の灯に寒き海鼠のぬめりかな 鬼城

聖者の訃海鼠の耳を貫けり 普羅

すきものの歯こきこきと海鼠たぶ 蛇笏

沖の石ひそかに産みし海鼠かな 喜舟

海鼠はいざり魚は尾をはね俎に 櫻坡子

酢に逢うて石となりたる海鼠かな 喜舟

山一つ海鼠の海とへだちけり 石鼎

古妻も出刃も海鼠も仏かな 喜舟

かたまりて色のみだれの海鼠かな 喜舟

このわたの桶の乗りゐる父の膳 たかし

このわたに唯ながかりし父の膳 たかし

棹立てゝ船を停むる海鼠掻き 普羅

珠洲の海の高浪見るや海鼠かき 普羅

海鼠舟よろめき戻る防波堤 秋櫻子

心萎えしとき箸逃ぐる海鼠かな 波郷

わたぬきてさあらぬさまの海鼠かな 青畝

海鼠噛む真顔のときのすさまじき 楸邨

行方なく海鼠食うべて欠けたる歯 爽雨