紙漉の窓の楮の丘に雪
狩くらの野に三つの沼の見えわたる
畦をくる子ら白鳥の餌付けにか
列並めて雁白鳥とともに鍵
白鳥の尾に嘴つぎて列過ぐる
みだれ落つ川洲おほひに雁寒し
寒雁の氷の面をくだく音に落つ
白鳥の餌付けをもどる子ら丹の頬
行方なく海鼠食うべて欠けたる歯
ねんねこの母の眼子の眼いま空へ
風邪くすりさみしこぼしもせずに飲む
年暮るる無病やうやく倦むごとく
盆梅の歳暮の熨斗を苔におく
お歳暮の礼筆勢にうけたまへ
焼藷の乾漆二体焚火より
画展出づ大黄落の木々の前
妃の陵は濠のさざなみ冬紅葉
尼の居の障子訪はまく疵ひとつ
せきれいを甍波にぞ堂寒き
堂を出づ旅の襟巻巻きみだし
襟巻や嵯峨に残んの田あり立つ
寒牡丹まだ見ず障子内に在り
寒牡丹雪踏み鳴らし見るに燃ゆ
生涯の書屋の障子今を暮れ
薬喰全うせむと餅も煮る
柚子湯出て老の顔なる汗やまず