春を待つ身におよばねど机上の日
日脚伸ぶ空それぞれの梢置く
筆硯の吟社と古び年忘れ
幾故人おくりしこれの暦古る
茶の花の屑々の中大一つ
笹子鳴く旅もどりまだ庭を見ず
凍庭に鳥の撒餌もして朝餉
とく参じたれば庭掃き炉開に
祖父同士邂逅七五三詣で
冬帽の額あたたかく着そめけり
子とありて燃えつるる耳日向ぼこ
赤富士は逸してめざめ宿凍つる
わさび田のまろ石寒の水ながれ
狐火のそのとき富士も空に顕つ
御陵冬その裔といふ衛士も見ず
芝あるく小春鶺鴒尾をうかべ
書斎時を惜しみ雑炊をはこばしむ
笹原に笹子の声のみちさだか
枝くぐり立ちて寒紅梅ひたと
枯れをはる夜空の銀杏神還る
繕ひの音か塔より枯野ゆく
どの鹿となく屯より声寒き
一燈と熟柿を磨崖仏の裾
わが作る霜除の藁ばさばさと
海苔屑の染むる磯ふみ避寒人