寒灸の一火一火と燃えしづむ
老の身の坐りかたむく寒にあり
鬼やらふ画室書斎と闇のまま
豆撒きし枕べのまま寝ぬるべし
夜半覚めて毛布に眠りいそがるる
無患子のしぐれし空にみなぎる実
御衣褶拝観さむく流れ出づ
笹子鳴くわが丈笹にしづむとき
奈良にして消ゆる寧楽山しぐれ雲
しかと見る冬至をきのふなる夕日
一塊の霜枯の富士あざみなり
鳴きかはす谷と真空と寒からす
参道の大杉寒をひびきあふ
雪ぬれの足袋ぬぎ訪ふに梅紅し
庭に出て木々は常なる春を待つ
日脚のぶ退勤の顔ことごとく
鴨来ると湖畔のみ堂ほとけ満つ
波明り厨子にぞ浮御堂小春
冬日消ゆ道は築地を左右となる
息づきの仏とわれと堂しぐれ
枯草の歩み礎石の上となる
枯野来て法隆寺みち松に菰
冬日さす柱列賽者ゆかしむる
堂前へすすむ綿虫眉にふれ