和歌と俳句

枯草

花皆枯て哀をこぼす草の種 芭蕉

枯はてゝ霜にはぢずやをみなへし 杉風

草枯て狐の飛脚通りけり 蕪村

かれ草や茶殻けぶりもなつかしき 一茶

戸口までづいと枯込野草哉 一茶

風に鳴る松や孤峯の草枯れて 龍之介

人絶えし昼や土橋の草枯るる 龍之介

沢岬の昼や静に草枯るる 龍之介

枯草に犬尾を垂れてものを嗅ぎ 虚子

枯草にてらつく石の二つ見ゆ 鬼城

大江戸の街は錦や草枯るる 蛇笏

枯草ふかう一すぢの水湧きあがる 山頭火

枯草や波青々と淵の水 石鼎

枯草や負ふ手杖す手とぼとぼと 石鼎

枯草に粉雪ささやけば胼の吾れ 久女

枯草や水たまりゐるころげ壜 爽雨

草枯の家路へ牛のもうとなく 石鼎

草枯や暮れて尚とぶ庵雀 石鼎

草枯の日だまり丘や欅幹 石鼎

草枯やましたに暮るゝ谷の家 石鼎

草枯や鯉にうつ餌の一とにぎり 蛇笏

草枯や石の狐の口長く 喜舟

河面はさしひく汐や草枯るゝ 喜舟

草枯やごろりごろりとごろた石 草城

枯草に寝ころぶやからだ一つ 山頭火

枯草をみなみなつけて立ち上る 立子

枯草に午笛のながき尾が隠る 誓子

草枯れぬ戦をかかる丘にせし 誓子

塹壕はあさくことしの草も枯れぬ 誓子

草枯れしあさき塹壕に下りて見る 誓子

地の果てゆ草枯れ寄する二克山 亞浪

草枯れて港埠の鉄路柵を置かず 不死男

操縦士犬と枯草駆けまろぶ 三鬼

子等のものからりと乾き草枯るる 汀女

枯草に友のながせし血しほこれ 素逝

枯草に尚さまざまの姿あり 虚子

枯草のそよげどそよげど富士端しき 亞浪

一望に枯草の曳く光りかな 月二郎

枯草や大きな井戸の径一つ 月二郎

時雨るるや竹のごとくに枯るる草 青邨

安芸枯れて草山なれど海に墜つ 林火

枯草に坐し子を捧ぐ母の笑 友二

枯草に蹄鉄工の火花散る 占魚

枯草の身にこたへなく踏みて佇つ 占魚

草枯の礎石百官卿相を 虚子

おとろへはまづ足よりぞ草枯るゝ 万太郎

枯草や思わぬ人に摘まれ行く 耕衣

枯草の歩み礎石の上となる 爽雨

顎添に枯草まがる思いかな 耕衣

落日の肌に枯草生えにけり 耕衣

老体を刺して枯草微塵かな 耕衣