和歌と俳句

酉の市

世の中も淋しくなりぬ三の酉 子規

吉原ではぐれし人や酉の市 子規

若夫婦出してやりけり酉の市 虚子

ぬかるみに下駄とられけり酉の市 淡路女

旦より二の酉小雨光降る 石鼎

明けはなれゆく夜のかげや酉の市 万太郎

酉の市疱瘡神も照らさるゝ 素十

外套の仕立おろしや酉の市 万太郎

一の酉菊も売るなる社道 みどり女

酉の市の人波囃す神楽かな 喜舟

酉の市山谷へ出づと月の中 万太郎

月かけて晴れぬく空や酉の市 万太郎

淋しさや護国寺近き酉の市 喜舟

くもり来て酉の夜のありあたゝかに 万太郎

初酉のつぶるゝ雨となりにけり 万太郎

三の酉つぶるる雨となりけり 万太郎

酉の市福財布とて婆も買ふ 淡路女

酉の市そのお神楽の馬鹿熊手 淡路女

海岸に大廻りしぬ三の酉 かな女

終電に間ある雑鬧三の酉 友二

三の酉しばらく風の落ちにけり 万太郎

旦より二の酉小雨光り降る 石鼎

たかだかとふけたる月や三の酉 万太郎

めっきりとことしの冬や酉の市 万太郎

酉の市はやくも霜の下りにけり 万太郎

宵酉のふぜいの雨となりにけり 万太郎

龍泉寺町のそろばん塾や酉の市 万太郎

提灯のちやうちんや文字酉の市 万太郎

風おろしくる青空や一の酉 波郷

二の酉やいよいよ枯るる雑司ケ谷 波郷

星空を闇とは見せつ酉の市 秋櫻子

一の酉ベッドの裾を黄葉染め 波郷

二の酉や枯木襖のむらさきに 波郷

気散じにちりし銀杏や酉の市 波郷

青空と風が出そめぬ一の酉 波郷

風すぐに櫟しぼりぬ一の酉 波郷

二の酉もとんと忘れて夜に入りし 立子

熊手

病む人に買うて戻りし熊手かな 虚子

何やらがもげて悲しき熊手かな 虚子

人の中を晏子が御者の熊手かな 鬼城

熊手店枯木のもとにきらびやか 淡路女

朝風に金箔飛ばす熊手かな 喜舟

派手やかに〆て熊手の売れにけり 淡路女

大熊手売れし手打ちの又聞ゆ 淡路女

金箔に風きらきらと熊手店 淡路女

俳諧の欲の飽くなき熊手買ふ 風生