和歌と俳句

阿部みどり女

盛りあがる一坪ほどの冬菜かな

焚火する夫に掃き寄りあたりけり

大いなる茶屋を囲める大枯野

詣りたる大観音の枯木かな

砂よけのかげにも一人日向ぼこ

道しるべにかしいでしまひけり

中々に羽子板市を去にがたく

笹鳴の小さなる音をきゝすまし

傘さして頬かむりして落葉焚

茶の花や裏より這入る九品仏

北山の時雨話や時雨冷え

の畑鶯色に暮れてゆく

だんだんに深雪の畑となりにけり

空風にかなしき胼のきれにけり

座布団の宮の落葉をなつかしむ

山茶花にもたれし塀や嵐あと

山茶花や屋敷の如き墓の内

役僧の廊下走れる日短か

立てまはす古き屏風や隙間風

注連張るや神も仏も一つ棚

下りて行く人に従ふ落葉道

冬晴や憩へる前のいばらの実

柊の花にかぶせて茶巾干す

霜除をしてゐるらしや針仕事

市の音すれど静かや芝枯るゝ

朝よりも鳴かぬカナリア風邪ごもり

北風や神のみたらしからからに

枯菊を残らず刈りて春を待つ

大玻璃戸立てゝ枯蓮へだたりぬ

裏庭は何もあらざり障子閉づ

明日の芝居のたのしみに

春著縫ふ心もとなき眼となりぬ

抱一の植ゑし侘助今に尚

蘭蝶を弾かせて年を忘れけり

小春縁さきのことなど思ふまじ

日向ぼこ何やら心せかれゐる

屋根の上凧見えそめて春近し

麦蒔きし翌日強きを見る

金柑の鉢そのままや雪の中

わが他にぬかづく人やの宮

仏壇の煤を払ふや南無阿弥陀

不足なる調度になれて煤払

餅焼くや我が子の如き句友どち