和歌と俳句

阿部みどり女

初冬の大塵取に塵少し

わが影消えてあたりの枯芒

時計見てベンチを立てりの人

冬鴉黒点となりいつまでも

アドバルン北風はらみ下ろさるゝ

北風の大門稀に開くかな

鑿の音師走をきざむ如くなり

仲見世に来て大年の月を得し

観音様のお水屋に売る注連飾

校倉は堅く閉ざしての宮

大木とベンチがありての園

人を得て火鉢はなやぐ時雨宿

五重の塔の朱は朱からず冬日落つ

夜半の燈の我に親しき風邪かな

玄関に厨にさとき風邪の耳

出逢ひたる人もそゝくさ師走

かけ通す涅槃図のありの寺

旅一と日短きことよ枇杷の花

山眠り孫は大きく育ちけり

山近く山の日つよし麦を蒔く

犬屹と遠ちの枯野の犬を見る

電線の光とぎれて冬の野へ

人の踏む桜落葉の日斑かな

旗立てし草家二軒に降りし

はりつめし人の面に冬日かな

肩かけをとりてニュースに立ちどまる

号外を見つゝ冬日を来る二人

雪虫の掌をはなれとぶ命かな

霜焼にかこつけ嘘をいふあはれ

だんだんに軒端の雪の黒く急

山腹にかたまり凍つる墓石かな

汝を世に送る大いなる夜の師走

一握の雪沈丁に日脚のぶ

初冬や童はつゝそでをぴんと張り

しぐれ鏡の林しぐれけり

母つれて熱海の宿に返り花

霜除すあるじがのこせし牡丹に

雪降らす雲かや窓に動きそむ

夫婦してわき目もふらず年木結ふ

潦そのまゝ寒の水となる

子等去りて芝生俄かに冬ざるゝ

霜強き日のあたゝかさばらにあり

母を中に冬の燈下の旅ばなし

釣人に怒濤のしぶき冬の海