和歌と俳句

阿部みどり女

萩からげて初冬の庭となりにけり

煤の顔集めて物の置所

煤掃きつゝも商へる小店かな

海穏か布団たゝんで縁に立つ

氷砕けて実南天の蔭にありし

歩み止めば音何もなし落葉かな

三人かざす火鉢小さし冬椿

頭巾ぬぐや縫物片寄せて母やさし

雨しみて幹の黒さや冬ごもり

冬ごもり書籍に床の歪み居り

白足袋や帯の固さにこゞみ穿く

ぼやけ日残る銀杏の空や時雨けり

枯木透いて屋根段々や冬の雨

冬ばらに落葉乏しくなりにけり

落葉山一つ燃えゐて秋社

すがれたる菊に初冬の塀高し

煤煙に又も暗さや枇杷の花

書籍積みて冬中塞ぐ窓辺哉

炭切るや焚火の灰を且つ被り

鴨の池にまだ落葉ふる少しづゝ

風邪気味の働くいやな日向ぼこ

寒菊にいぢけて居ればきりもなし

札納めて遠く拝しぬ帰りぎは

草箒どれも坊主や返り花

又重きポンプとなりぬ冬椿

日に出せば鰭動かしぬ寒金魚

出すや寒うち焚かぬ湯殿より

髷の雪ぬぐはず炭を足し居りぬ

行燈に頬片かげり近松忌

蘆の風に流るゝさまやかいつむり

渡殿や人行き交うてお霜月

寒梅や風に伏し伏し坂下る

ただ一つ白きつゝじの返り花

水鳥に胸おしつけて舟下ろす

人よれば驢馬うれしがる冬日

冬の庭伐られし桐の生々と

寺に生れて経をきらひぬ冬椿

札納めて賑ふ町に小買物

冬の灯に子達を追うて寝かしけり

やもめなる人子に仕へ寒灯

両側の家大いなる落葉かな

落葉籠背負うて来ては焚きにけり

石室に大黒天や神無月

一の酉菊も売るなる社道

みぞるゝや茶屋に灯りし吊燈籠

煤人やうす日の原に立話