和歌と俳句

落葉

山晴れをふるへる斧や落葉降る 蛇笏

落葉踏んで去る友に閉めて蒲団敷く 泊雲

菜畠へ次第にうすき落葉かな 泊雲

焚つけてなほ広く掃く落葉哉 泊雲

牧水
枕もたげ 静かに聞けば 落葉積む 暁の家に 風は落ちたれ

牧水
暫くは 歯を磨きつつ 立ちつくす 井戸辺埋めし 暁落葉

落葉して町中に大樹憎まるゝ 泊雲

風の音遠のきし後に落葉かな 花蓑

帰庵して草鞋の儘や落葉掃く 花蓑

厳めしく門立てり落葉ふりやまず 山頭火

落葉ふんで人道念を全うす 蛇笏

落葉掃いて土に見出でし小草かな 石鼎

傘さして足袋いたましき落葉かな 石鼎

風にちる落葉の中より湧き立ちし鳥 山頭火

拾得は焚き寒山は掃く落葉 龍之介

鵯たつて地を煽れる落葉かな 泊雲

泣きつ祈る人の子に落葉そそぐかな 山頭火

落葉やがてわが足跡をうづめぬる 山頭火

しくしくと子が泣けば落つる葉のあり 山頭火

土もろく鍬に反りし落葉かな 石鼎

藪溝に霰たまりし落葉かな 石鼎

高きよりひらひら月の落葉かな 草城

色をうつしてこまごま霜の落葉かな 泊雲

森深く空見え出づる落葉かな 石鼎

歩み止めば音何もなし落葉かな みどり女

落葉道掃きしめりたる箒かな 久女

わが歩む落葉の音のあるばかり 久女

松籟に日はかくれたる落葉かな 石鼎

古里の灯とぼし頃の落葉かな 喜舟

老の背ややをら揚げたる落葉籠 泊雲

月の面の穢の鮮かに落葉かな 石鼎

山裾に落葉の塀の長さかな 櫻坡子

なだらかに崖裾流れ道落葉 石鼎

今沈む日のわたり居る落葉哉 石鼎

山越えて日の渡り居る落葉哉 石鼎

青桐や落葉の下の潦 石鼎

風を追ふ風にまた立つ落葉哉 石鼎

夕月の霧の底なる落葉かな 石鼎

落葉踏むやしばし雀と夕焼けて 水巴

風の枝に鳥の眼光る落葉かな 水巴

白日は我が霊なりし落葉かな 水巴

かさこそと或は小畠や垣落葉 泊雲

庭落葉掻きおさへ置く熊手かな 爽雨

晶子
とこしへに同じ枝には住みがたき身となりぬらしおちばと落葉

晶子
落葉憂し生きたる苔にはばまれて石の質なる霜におされて

晶子
からかねの薄き姿の落葉とて仏具と見ゆれ庭に見れども

晶子
海近き海門橋のもとにして流れもあへず朽ちゆく落葉

晶子
夕月が孔雀の色を与ヘたり箱根の渓の落葉なれども

橋の茶店に休む水の面の落葉流るゝ 碧梧桐

ひらひらと深きが上の落葉かな 虚子

落葉へらへら顔をゆがめて笑ふ事 放哉

星空や落葉の上を精進まで 普羅

風落葉岩にはりつき暫くは 泊雲

落葉掃けばころころ木の実 放哉

落葉拾うて棄てて別れたきり 放哉

落葉皆道祖神に走りけり 喜舟

たまるに任せ落つるに任す屋根落葉 虚子

水の上の落葉も見えて凪月夜 花蓑

門三つ相よるつぢの落葉かな 石鼎