宵過ぎの雪となりけり年の市
どろどろに酔うてしまひぬ年忘
クリスマスの靴磨きゐる牧師かな
顔見世の前景気とはなりにけり
足袋ぬぎし足につれなき畳かも
風邪の子の枕辺にゐてものがたり
夕闇にあらがひ猛る焚火かな
青空に焔吸はるる焚火かな
静けさや炭が火となるおのづから
炭を挽く心静かや夜の雪
埋火や思ひこだはる一つ事
湯豆腐の浮沈を縫うて朱の箸
牡蠣船や静かに居れば波の音
乾鮭の鱗も枯れて月日かな
荒磯波くだけて月の千鳥かな
水鳥の葦に隠れて生む水輪
寒雀遠くは飛ばぬ日向かな
高きよりひらひら月の落葉かな
思ひつめし心ほどけぬ蜜柑むく
寒菊やころがり侘びて石一つ
弱りつつ當りゐる日や冬の菊
水かへて水仙影を正しけり
よろよろと枯れたる蓮に霙れけり
寒梅の香や月の花蔭の花
寒梅や痛きばかりに月冴えて