柚子湯出し顔つたつやと古女房
年の瀬や軽口たたく療養者
田園の闇ふかぶかと大晦日
息白く妻が問ふよく寝ねしやと
眠れねば片頬に触るる隙間風
焙じ茶の汲む間もかをる霜夜かな
火の色やけふにはじまる十二月
いつも臥て炭を継ぎたることもなし
心臓を意識してをり霜凝る夜
歳つまり百合の久しき蕾咲く
おだやかに夕づきにけり歳の暮
残骸を横たへとをり歳の暮
大晦日ねむたくなればねむりけり
手の爪はみづから剪りぬ年の夜
除夜の鐘もうすぐに鳴るとき寝落つ
かくこそはありへぬれなほいのちあり
わが手枯れ妻の手は固くなりにけり
かへりみて長かりき長からざりき
わが子はやかの日の妻の齢なる
その半ば十とせをみとり妻として
風立ちぬ深き眠りの息づかひ
思ふこと多ければ咳しげく出づ
一點が懐爐で熱し季節風
わが詩や真夜に得てあはれなり
うしみつにわが咳き入りて妻子覚む