炭つぐや頬笑まれよむ子の手紙 久女
炭をつぐあえかな指に眼をとどむ 草城
つぎ去りし炭のかをりのきこえそむ 草城
炭出すやさし入る日すぢ汚しつつ 不器男
炭つぐや音まさり来し夜の雨 秋櫻子
炭ひいて稍まぎれたる愁かな たかし
炭をひく後しづかの思かな たかし
炭出しに出てもつき来る猫可愛 風生
古今集説きたまひ炭をつぎたまふ 秋櫻子
縁の下一俵の炭を蔵したり 青邨
炭つぐや人の慈言に泣くこころ 麦南
炭つぐのみ何か訊きたき顔は見ず 楸邨
炭つぐや誰も黙りてその手見る 楸邨
炭の香や絵巻ひろげて主客こごむ たかし
狆を抱いて炭切る前を通りゆく 青邨
夜あたたか濡れいろ見する炭の艶 林火
炭つぐや雀もつともいきいきと 楸邨
寂けさを欲りまた厭ひ炭をつぐ 信子
炭つぎつ昼はそのまま夜となんぬ 信子
なが住の炭うつくしくならべつぐ 素逝
炭つげばまことひととせながれゐし 素逝
老馬の炭おろしたる影法師 蛇笏
巫女白し炭をつかみし手をそゝぐ 普羅
いぶり炭悲しくてつい焔立つ 多佳子
かんかんと炭割る顔の緊りをり 波郷
炭の香や嬌やぎそむる吾子の指 草城
たつぴつに雲水炭をつぎくるゝ 万太郎
雲水のつぎくれし炭熾りけり 万太郎
みほとけに仕ふる炭の用意あり 青畝
炭を挽く堅きところを挽いて過ぎ 誓子
不自由をしのぎきたりし炭をつぐ 青畝
炭掴み主婦のよろこびここにもあり 波津女
家ぢゆうをかなしませ炭いぶるなり 波津女
いぶり炭三和土に出して憎みけり 波津女
炭挽きし汚れ夫には近づけず 波津女
炭継いで上げし明眸にて視らる 草城
炭せせる貧乏性をきらはるる 風生
いつも臥て炭を継ぎたることもなし 草城
炭を割る音夕凍みのむらさきに 林火
炭運ぶ車輪もかげもまはるかな 青畝
よき炭のよき灰になるあはれさよ 虚子
炭かつぐ父をかなしむ少女の句 風生
炭俵はやぬかるみに蹈れけり 一茶
一冬や簀の子の下の炭俵 子規
東京に南部の炭の大俵 青邨
薄雪や簷にあまりて炭俵 波郷
父の忌の雪降りつもる炭俵 林火
蓄へは軒下にある炭二俵 虚子
炭俵底なる暗をつかみ出す 波津女
妻病めり傾き減りし炭俵 波郷
月の軒引き寄せてある炭俵 汀女
炭俵闇に馴れよとある如し 汀女