和歌と俳句

長谷川素逝

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あめつちのあひだふと翔つ朴落葉

朴落葉はなれて天の刻ゆらぐ

はなれたる朴の落葉のくるあひだ

いちまいの朴の落葉なありしあと

人のほか土の上よりもの枯れぬ

しみじみと日なたの冬となりし土

雨の日は雨のひかりの土の冬

麦を蒔くこぶしの下のとはの土

冬耕のとほくの牛へ畝長し

茶の花のひそかに蕋の日をいだく

茶の花の蕋のまづしき入り日かな

土の上にある日花枇杷にある日

枇杷の花日あたることをわすれたる

ふたまたの幹へながれて冬日かな

根もとよりおのがしじまの大冬木

太幹のしづかさ冬の日をながし

大枯木しづかに枝をたらしたる

冬ぬくく果樹の畑も屋敷うち

谷に住む十一月のあたたかし

吹かれゆく心落葉の風の中

ふきまろぶ落葉にしかと大地あり

大枯木すと日かげりてしりぞきぬ

照り昃ることにかかはり大枯木

大枯木日あたるところなかりけり

麦の芽の生ひ出て天を覆ひとす

麦の芽をつつみてひかりやはらかし

麦の芽の立つむきむきに土たひら

雪嶺はるらなり畝はたてよこに

暮れてゆくくらさへ雪の畝ならぶ

まなぞこに尾をひく雪のただならず

寒林のなかうつうつと幹ばかり

寒林のなかのどこかに日のこぼれ

いつぽんの幹のさへぎる冬日なり

風塵のなか日あたりて土の冬

蝋梅の花にある日のありとのみ

蝋梅の花にとどまりかすかな日

蝋梅の花のつくせる日なたかな

四まいの障子いつぱい冬至の日

しづかなるいちにちなりし障子かな

なが住のうつくしくならべつぐ

つげばまことひととせながれゐし