和歌と俳句

長谷川素逝

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なんばんのおのが葉風にさとき音

なんばんの葉の星明りかさといふ

なんばんの葉に照るほどの月ふとり

なんばんの月夜へ雨戸寝しづまる

ずずだまの穂にうすうすととほき雲

高黍の月夜となりて雲あまた

粟の穂のおのおの垂れて月明り

下げし灯に夜長の襖しまりたる

部屋のもの夜長の影をひとつづつ

ひとごゑをへだつ夜長の襖かな

めいめいの影の夜長のおのがじし

夜長さの障子の桟の影とあり

長き夜の影のあつまる部屋の隅

秋霖の音のをりをり白く降る

秋霖の音の畳の翳とあり

秋霖の襖の花鳥暗けれど

秋霖のいつかあたりとなくつつむ

夜長さの雨降る音のかはらざる

秋雨の障子かたひし鳴る中に

柿食うて燈下いささか悔に似し

秋燈のもとにて壁のかこむ中

ふりむいておのが夜長の影の壁

霧のなか幹のふとさのしづかなり

祖父の世の子の代の土に柿落ちて

柿落ちて日かげじめりの背戸の土

起ちあがる影の夜寒の灯の障子

ますぐなる音の木の実の前に落つ

木の実落つ音の落葉にせつかちに

掌のなかの木の実をすてて立ちあがる

いちまいの刈田となりてただ日なた

ひろびろと稲架の日なたの日のにほひ

かけ稲の暮れてゆく穂のただ垂るる

秋耕のいちまいの田をうらがへす

籾を干するすの日なたの日もすがら

干籾のひとつぶづつの日和かな

好日のかがようばかり障子はる

障子の日いつてんの穢をとどむなし

霧のなか雑木黄葉の色はあり

ただよへる黄葉あかりのなほ暮れず

木々の間に紅葉のいろのかたまれる

竹林をそびらに紅葉うきあがり

空に透き紅葉いちまいづつならぶ

苔の上のひとつひとつの散り紅葉

ふりかぶり濃紅葉あかりくらきほど

かんばせに濃紅葉あかりけはしさよ