和歌と俳句

長谷川素逝

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朝よりの大暑の箸をそろへおく

暑にこもる机に朝の間のこころ

極暑なるひりひり鹹き鮭食うぶ

暑にこもる畳に塵をとどむなく

暑にこもることのしづかに身をぬぐふ

身ぎれいに著てすずしさよ起ち居また

炎天下蟻地獄には風吹かず

眩りとす蜥蜴の膚の日の五彩

草むらにうごかぬ蛇の眼と遭ひぬ

灼きつくる日よりも蟻の膚くろし

やしなへるやまひに極暑けがれなし

在ることのひるの暑さの畳かな

目をつむりまぶたのそとにある大暑

長臥しの夜のいやなる蚊帳垂れて

大旱の星空に戸をあけて寝る

大旱の夜のいちぢくの葉のにほふ

雨のなき空へのうぜん咲きのぼる

田の草に行つてのるすの竈かな

天よりの喜雨のひとつぶ落ちにけり

在ることのしばらく喜雨の音の中

大夕焼一天をおしひろげたる

きはまりし夕焼人のこゑ染まる

天心へ大夕焼のゆるむなし

たちまちに大夕焼の天くづれ

朝の日がなんばんの葉のあひだより

足もとにかやつり草の露はじき

筆硯を洗ふ朝涼おのづから

山の日と八月青き栗のいが

あけはなしの仏間と間ごとの灯

座蒲団のならび燈籠灯くひと間

人の世のかなしきうたを踊るなり

踊すみ燈籠送りすみ闇夜

音たててくさぎの花に山の雨

青柿の月日やけふも雨そそぐ

新涼の夜風障子の紙鳴らす

村は夕べ障子の中に飼ふ秋蚕

のなか蓼も野菊も日の出まへ

はんの木に露の日輪ひつかかり

飛鳥路はしづかに土塀の日

よこたはる礎石の月日粟熟れて

山国の日のつめたさのずゐき干す

曼珠沙華描かばや金泥もて繊く

の夜のおのれ古りたる影を膝

よく閉めて雨の夜長と灯の夜長

いちまいの壁の夜長のあるがまま

長き夜の影と坐りてもの縫へる

ふりむきし顔の夜長の灯くらがり

とけい屋が夜長のがらす戸に幕を

星空へひしめく闇の芋畑

十五夜の灯をほと洩らし百姓家

訣れとはの明るさなど言うて