和歌と俳句

踊り

さるほどに泣きこゑしぼる音頭取 蛇笏

はじまらん踊の場の人ゆきき 虚子

海の上に月よもすがら盆踊 花蓑

揚舟に高張立てし踊りかな 素十

よりそひて踊の顔を包むなる 夜半

踊らんと顔を包めばうつくしき 夜半

あらはれて踊の人数つづくなり 夜半

足もとに波のきてゐる踊かな 播水

寺山の小萩が招く踊かな 喜舟

山々に木曾の踊も終りけり たかし

柳より踊櫓の灯ともれり かな女

鼓うつ櫓古めく踊かな かな女

相川音頭は桔梗の咲く踊かな かな女

髷のきれ踊るほどほど薄あさぎ かな女

鳳仙花咲く くらがりを来て踊 汀女

黒砂糖たうべつあるも踊連れ 汀女

母の顔見えければ踊りかくれけり 汀女

盆踊り果ててもどりて熟睡かな 汀女

島民の踊る三夜を月皎し 野風呂

踊旅の枕にひゞき来る 野風呂

踊り子にトマトのこれる畑かな 耕衣

踊の輪寝覚の床の入口に 青邨

木曾谷に十二拍子の踊あり 青邨

踊見るうしろを夜舟たちゆけり 林火

人の世のかなしきうたを踊るなり 素逝

月に踊る中にはいれば輪となりぬ 占魚

不思議やな汝が踊れば吾が泣く 虚子