和歌と俳句

中村汀女

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柳散るあるじは鳥の紙芝居

噴水のましろにのぼる夜霧かな

とどまればあたりにふゆる蜻蛉かな

りいと鳴く蟲のこもれるかな

秋雨の夜の轍のつづきたる

ひとしきり出船さわぎや秋の風

かたまりて船見送りや秋の風

秋の暮並びしバスのひとつ出る

盂蘭盆や葵も高く花を終ふ

に家より早き夕餉かな

に母の姿を追ひあそび

遠けれどそれきりなれど法師蝉

法師蝉到るところに日影かな

ねむがりて子等寝しあとの蟲時雨

ほつほつと木犀の香に降つて来し

もろこしを焼くひたすらになりてゐし

鳳仙花咲くくらがりを来て踊

黒砂糖たうべつあるも踊連れ

母の顔見えければ踊りかくれけり

盆踊り果ててもどりて熟睡かな

コスモスや鐵條網に雨が降る

工場のいつもこの音秋の雨