鉦叩ところを移す幽かかな
秋雨の降り来し苫に傘をさす
廚事多きにつれて月のぼる
秋草のすぐ萎るるをもてあそび
案山子よりも淋しき顔に見送りぬ
三方の夜長の壁に地図を張る
人波の市電をえらみ秋の風
夜は夜の客親しさよ鳳仙花
まなかひに来れる霧に小さき子よ
露けさや薪よく燃ゆる外竃
朝顔に産安らかと聞えたり
沐浴すや朝顔垣の夜もたわに
よべ一夜鳴きゐし蟲や翅青く
秋暑き汽車に必死の子守唄
裁ち鋏月をよそなる切れ味に
水澄むや一夏飼ひて金魚二尾
澄む水にいくつは乾く石となり
追ふ如く柿もぎにやりもてなさる
露けしと思へる夜の軒すだれ
働きし身のさわやかに夜の菊
月まとも輝きにけり幼な顔
月出づともつとも高く芭蕉立ち
流燈の焦ぐるばかりに面照らす
流燈の灯影したがふ速さかな