和歌と俳句

中村汀女

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16

さぼてんの露蘭の露月明かし

秋灯のとだえし闇は城址かな

秋風ややうやくなじむ国の町

柿棹と伯父の輝く白髪と

雲を出し月ににはかに舟暗く

秋風に人ゐて火口歩き居り

山冷のの遠に子を置きし

いたはられ母気に入らずの町

霧の夜を連絡船は待つてゐし

立秋のあるがままなる籐椅子かな

がちやがちやの高まるばかり人幽か

秋日さすへへのの文字の吾子の文字

つのりくる椋鳥の機嫌の樹のもとに

椋鳥のこぼれの連れの二三日

木犀の匂ふとまたも言はで居り

洗髪月に乾きしうなじかな

夜長澄む子の眼にあはれ母眠く

菊白き月夜夜と思ひ馴れ

年ごろの似てかへりみて曼珠沙華

父若く我いとけなく曼珠沙華

秋雨に煙らせて居り祭店

祭店あはれ小さく雨やどり