さぼてんの露蘭の露月明かし
秋灯のとだえし闇は城址かな
秋風ややうやくなじむ国の町
柿棹と伯父の輝く白髪と
雲を出し月ににはかに舟暗く
秋風に人ゐて火口歩き居り
山冷の芒の遠に子を置きし
いたはられ母気に入らず月の町
霧の夜を連絡船は待つてゐし
立秋のあるがままなる籐椅子かな
がちやがちやの高まるばかり人幽か
秋日さすへへのの文字の吾子の文字
つのりくる椋鳥の機嫌の樹のもとに
椋鳥のこぼれの連れの二三日
木犀の匂ふとまたも言はで居り
洗髪月に乾きしうなじかな
夜長澄む子の眼にあはれ母眠く
菊白き月夜夜と思ひ馴れ
年ごろの似てかへりみて曼珠沙華
父若く我いとけなく曼珠沙華
秋雨に煙らせて居り祭店
祭店あはれ小さく雨やどり