和歌と俳句

中村汀女

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怒濤よりほかに音なし秋時雨

渡り鳥空の色めきまだ覚めず

木犀や秘苑の水のみなもとに

色鳥や深井の水を愛で汲めば

片寄るも流燈かなし離るるも

烏瓜言葉何やら聞きもらし

秋草の花こまやかやどの道も

秋蝉や簾もいよよ日差溜め

ふと闇の花火に反く艪のきしり

秋風や誰にともなき祷りのみ

ただ一つ大橋かけて月の秋

山荘の秋の日差の小間を愛で

わが心ふつつきめけば小鳥来る

夕蜩掘割黒く汐上げつ

法師蝉町の果てとは思はねど

雁の声ききとめし顔見返され

とどまるも行くも秋風昼休

秋の蝶黄なり何かを忘れよと

一枚のすだれに殊に夕野分

いわし雲想ひ幼き日にのみに

濯ぎもの乾けばよき日雁渡る

娘の家も憚るものや秋のくれ

流燈の離れじとのみみな沖へ

雪富士のかがやきかがやけり