板塀の野分の小門締めしまま 虚子
老の杖野分の中を散歩かな 虚子
明日いかに焦土の野分起伏せり 楸邨
づぶ濡れて野分の雀われ覗く 多佳子
飢ゑてみな親しき野分遠くより 三鬼
吹きめぐる野分に向けし喉仏 楸邨
火の中に死なざりしかば野分満つ 楸邨
身も胸も野分の貨車に打ち揺られ 楸邨
東京に妻をやりたる野分かな 波郷
あなうらのひややけき日の夜の野分 信子
野分中相ふれてゆくひとの肩 信子
何事も野分一過の心かな 虚子
苦笑ひして日が落つる野分なか 亞浪
野分の樋雀が二つ横歩き 楸邨
人を恋ふ野分の彼方此方かな 波郷
乙女さやか野分の供華をかきいだき 波郷
硝子戸に焼跡ゆがむ野分かな 波郷
野分の戸妻に追はるる如くなり 波郷
木鋏の音はつきりと野分去る 信子
頭あぐればかなしさ集ふ野分あと 多佳子
野分浪通行人が寂しくす 耕衣
窓枠も狭の楢櫟野分だつ 波郷
顔わかぬまで病廊長き野分かな 波郷
野分浪夫臥しをればひとり見る 波津女
野分しづまり猫長々と歩み去る 綾子
古家に釘打つ音の野分かな 虚子
野分吾が鼻孔を出でて遊ぶかな 耕衣
しづかなる雨漏なれど大野分 青畝
子が駈けて野分に白き足の裏 楸邨
鉄めざむ野分の火の粉土をはしり 楸邨
硝子戸の外の野分を見よと言ふ 綾子
野分あとの柔らかき日が朝飯に 綾子
野分すや机の上の顔搏つて 波郷
野分せりいつまでつづく療養歌 波郷
拡声機遠き野分の音漏らす 楸邨
野分中鉄は打たるる鉄の上 楸邨
野分暗しときどき玻璃の外面見る 虚子
野分跡倒れし木々も皆仏 虚子