和歌と俳句

加藤楸邨

掌にかこむ燐寸が濡れし著莪を照らす

咲くや幹は夜より朝かなし

船の畳を蟻はいそぎぬ能登の果て

湧水に青菜をどりて疲れ濃し

田草とる脚立ちても曲り青嶺たつ

眼下津軽肩はなれゆく夏の蝶

馬洗ふ次第に少女頬熱し

津軽青野に煙一筋林檎磨く

馬洗ふ蒼茫として出羽の山

雲のうしろは夕暮津軽ひろごらむ

生き死にの上や炎日めぐりをり

未明の湾へ醒めてくるめく蜻蛉の目

巌の左右を秋濤はしりきて逢ふも

富士新雪日向はどこも鉄くさし

鉄担ぎし日焼の肩を指でほぐす

拡声機遠き野分の音漏らす

炉の鉄に日の色満ち来秋の暮

野分中鉄は打たるる鉄の上

毛糸編み落葉音もつ一つ一つ

風邪の目の白き山茶花にてさむし

石に来て秋風の音遠くなりぬ

秋の風釜を夕日に向けて磨ぐ

柿色の日本の日暮食へば