癒えしかなと雪解の中に我を置く
芹・野川おどろきやすき蝶のゐて
冬海の方へ寝かへる一息に
梅にたち癒ゆる全身に息満たす
塩買ひて春の雪嶺ちかかりき
朧にて落つるハンマー音おくれ
泣き寄る子喉の奥まで春日さす
春嶺の脈うつを蹴り起きあがる
踝にとどろきし雷熱さめゆく
梅雨の烏賊鱗光烏賊の形もて
夏暁の杭ゆきては水のひかるかな
玉巻く芭蕉病身反らすこと少なし
父の背に睡りて垂らすねこじやらし
異国米梅雨の炊煙伏しに伏す
すでに夏暁雲の中より雲噴きあげ
腹上に手拍子とるや春の雁
紫蘇青く遠嶺湧きたつ屋根の果
春の闇癒えゆく肋触らるる
病夫の名負ひをり花も過ぎんとし
咽ぶと憤ると冬の煙突さびしきかな
枯野来るときどき胸をゆりおこし
陽炎ひてもう痩せられぬ犬の肋
丹沢に向き生きえたる白息を
飛ばぬとき冬の鴎の白極まる
雪中の水音希ひはじむなり