冬嶺一襞燃えてカナリヤはづむなり
雪夜の門夢のごとくに亡き子ゐずや
毛糸編みつつ笑の揺れゐる肩
鷹の目のたどりつかんとするものあり
磨きに磨いてなほ悴みぬ靴みがき
凍て土をあふるる水の頭がやさし
菊を去りてもしばらく言葉すがすがし
胸おこすかな檻に胸張る鷲を見て
振る雪に胸裏の声の追ひつけず
女体の奥鳴りいだすごとく羽子をうつ
羽子うつと口の端に髪噛んでをり
蟹の脚がつかみて冬の黒き土
信濃の川はどれも冬青し石奏で
冬嶺青く睡りさめたる兎の瞳
冬山登ると下ると時計あはせをり
枯山のどれかに日さす信濃路は
胡桃焼くだんだん雪がはやく降り
睡り近づく冬木挽く香もすぐに過ぎ
峡の夜汽車に苞の寒鯉口をあく
冬の浅間は胸を張れよと父のごと
信濃の菓子の割れば餡より胡桃匂ふ
雪の落葉松雪の落葉松どこまでも
みづみづしき漬菜よ信濃雪を布き
雪照る浅間伏目といふはゆるされず
火となりきり冬木の年輪見ゆるかな