和歌と俳句

加藤楸邨

冬嶺一襞燃えてカナリヤはづむなり

雪夜の門夢のごとくに亡き子ゐずや

毛糸編みつつ笑の揺れゐる肩

鷹の目のたどりつかんとするものあり

磨きに磨いてなほ悴みぬ靴みがき

凍て土をあふるる水の頭がやさし

菊を去りてもしばらく言葉すがすがし

胸おこすかな檻に胸張る鷲を見て

振るに胸裏の声の追ひつけず

女体の奥鳴りいだすごとく羽子をうつ

羽子うつと口の端に髪噛んでをり

蟹の脚がつかみて冬の黒き土

信濃の川はどれも冬青し石奏で

冬嶺青く睡りさめたる兎の瞳

冬山登ると下ると時計あはせをり

枯山のどれかに日さす信濃路

胡桃焼くだんだん雪がはやく降り

睡り近づく冬木挽く香もすぐに過ぎ

峡の夜汽車に苞の寒鯉口をあく

冬の浅間は胸を張れよと父のごと

信濃の菓子の割れば餡より胡桃匂ふ

雪の落葉松雪の落葉松どこまでも

みづみづしき漬菜よ信濃雪を布き

雪照る浅間伏目といふはゆるされず

火となりきり冬木の年輪見ゆるかな