和歌と俳句

悴む

かじかみし手をあげてゐるわかれかな 禅寺洞

かじかめる手をもたらせる女房かな 青邨

法廷に指の悴む男女かな 誓子

悴みて囚徒抗ふこともなし 誓子

悴けたる四肢に鎖の鳴りにけり 誓子

足枷といふものはめて悴める 誓子

朝の礼交しゆく子よ悴める 楸邨

けふ一日顔悴みてものを云はず 誓子

かじかめる俸給生活者の流 草城

かじかめる手にマッチすり渡しけり 立子

タンク過ぎ鼻悴みし我かへる 楸邨

悴める手は憎しみに震へをり 虚子

悴める手にさし上げぬ火酒の杯 虚子

悴みて心ゆたかに人を容れ 風生

緊縛や悴む老の死にゆく背 不死男

煙草より菓子たふとくて悴める 波郷

悴みし日の紺絣なつかしき 楸邨

書けばすぐ悴みつつも筆力 楸邨

悴みて相逢ひし顔思ひ出せず 楸邨

悴みて我を離れず影法師 楸邨

悴みて瞑りて皇居過ぎゐしか 波郷

悴みてうつむきて行きあひにけり 虚子

かぢかみて脚抱き寝るか毛もの等も 多佳子

悴みてひとの離合も歪なる 草田男

悴まぬ日のために今日悴みき 楸邨

悴めるすがたに牛を曳き去りぬ 槐太

悴み病めど栄光の如く子等育つ 波郷

かじかみて貧しき人の義歯作る 三鬼

崖下のかじかむ家に釘を打つ 三鬼

磨きに磨いてなほ悴みぬ靴みがき 楸邨

かじかむや頭の血脈の首とくとく 多佳子

心中に火の玉を抱き悴めり 鷹女

悴みて繰れば画譜みな花ひらく 爽雨

悴みてただポケットに陥る手 爽雨

悴かみてペン落しつつ稿つづけ みどり女

悴める手にペンとりて書きくるゝ 立子

悴みて祖翁に拈華旅遠く 風生

悴む手女は千も万も擦る 誓子