さむき日も自然のけぶり石炭山に
さむき地発破にあひて激しぬる
地表の石炭の上に火の気焚く
けふ一日顔悴みてものを云はず
枯野ゆく大き車輪に紅の輪を
汽車はやく枯れし野を日をしりへにす
掌に枯野の低き日を愛づる
西方に垂天と遠き枯野見き
冬日没る蒙古の天の端を見き
漆黒の汽関車氷る野をゆける
氷る河わたる車室の裡白む
駅寒く下りて十歩をあゆまざる
風雪に満州黄旗白く褪せぬ
人界の暦日めぐる氷る野に
けふ一日枯野見くらし妻を恋ふ
馬車寒し露字をつらねし坂の壁
火酒は水かと澄めり氷る夜を
火酒を口にふふめり氷る夜を
毛の衣喪のうすぎぬを被き垂れ
枯木道靴をしづかに喪に服す
聖の僧枯木影せる道を来る
木々枯れて希臘正教の鐘とほる
凍る鐘ひとつびとつの音を異に
氷る河見ればいよいよしづかなり
松花江に流るるは凍てずある流れ