和歌と俳句

山口誓子

黄旗

さむき日も自然のけぶり石炭山に

さむき地発破にあひて激しぬる

地表の石炭の上に火の気焚く

けふ一日顔悴みてものを云はず

枯野ゆく大き車輪に紅の輪を

汽車はやく枯れし野を日をしりへにす

掌に枯野の低き日を愛づる

西方に垂天と遠き枯野見き

冬日没る蒙古の天の端を見き

漆黒の汽関車氷る野をゆける

氷る河わたる車室の裡白む

駅寒く下りて十歩をあゆまざる

風雪に満州黄旗白く褪せぬ

人界の暦日めぐる氷る野に

けふ一日枯野見くらし妻を恋ふ

馬車寒し露字をつらねし坂の壁

火酒は水かと澄めり氷る夜を

火酒を口にふふめり氷る夜を

毛の衣喪のうすぎぬを被き垂れ

枯木道靴をしづかに喪に服す

聖の僧枯木影せる道を来る

木々枯れて希臘正教の鐘とほる

凍る鐘ひとつびとつの音を異に

氷る河見ればいよいよしづかなり

松花江に流るるは凍てずある流れ