和歌と俳句

枯木

枝つづきて青空に入る枯木かな 不器男

枯木宿はたして犬に吠えられし 不器男

風立ちて星消え失せし枯木かな 不器男

山雀が尾を打つ音の枯木かな 水巴

水の面のはしりかがよふ枯木かな 槐太

赤く見え青くも見ゆる枯木かな たかし

詣りたる大観音の枯木かな みどり女

九つの黄金仏や枯木寺 石鼎

はつきりと月見えてゐる枯木かな 立子

白日の黄金色する枯木かな 石鼎

赤々と夕陽しづむ枯木かな 石鼎

もたれ寄る枯木の高さ仰ぎけり 立子

おもふことなく枯木をひろひあるきつつ 山頭火

四聖をまつり六賢を迎ふ枯木かな 青邨

枯木道靴をしづかに喪に服す 誓子

聖の僧枯木影せる道を来る 誓子

木々枯れて希臘正教の鐘とほる 誓子

烈風にぼんやり灯る枯木宿 茅舎

枯木中落ちかゝる日のちらとあり 花蓑

ぬば玉の夜の枯木の上の不二 花蓑

星降りて枯木の梢にゐ挙れる 誓子

夜明け来し巣を小鳥出し枯木かな 石鼎

夕日鳥影はるかより枯るゝ木へ 石鼎

木々枯れていつしか見ゆる白堊かな 石鼎

大枯木己が落葉を慕ひ立つ 虚子

遮断機はとくとく下ろす夜の枯木 汀女

しづかなる空がまいにち枯木の上 素逝

言葉なし枯木幾度かほとりを過ぎ 楸邨

宇治に来てかくも水急枯木よし 立子

おもひでの瞳に枯木立ありて来ぬ 鷹女

ひと行くと躍り鞭打つ枯木影 茅舎

鳥うせて烟のごとく木の枯るる 赤黄男

満山枯木かゝるがゆゑの樅の瑞 友二

枯木中白樺凝乎と巨魚の骨 友二

憑かれてぞ過ぎいつしか枯木道 友二

木枯れたり深夜下駄曳く街はづれ 友二

父の忌の母と立ち見る野の枯木 楸邨

妻は我を我は枯木を見つつ暮れぬ 楸邨

なぐられて枯木の中に泣けもせず 占魚

遠足の列くねり行く大枯木 虚子

枯木皆憐れみ合ひて立ちにけり 虚子

昃りしざわめき起きぬ枯木立 汀女

獄を出て触れし枯木と聖き妻 不死男

崖は立ち枯木は聳えわれは見る 楸邨

待ち呆けつ枯木かげわが影の上 林火

焼夷弾爆ぜて枯木の形立つ 楸邨

童等のうつくしき目や枯木立つ 楸邨

この道の枯木も家もおぼえあり 占魚

枯木坂垂れて天より犬がくる 不死男

木木枯れて手錠の記憶三宅坂 不死男

枯野の絵枯木の家に遺されぬ 楸邨

遠の枯木桜と知れば日々待たる 節子

ゆきちがふ枯木の右は我が行き 楸邨

枝鳴らす枯木の家に倒れ寝る 三鬼

枯木道死なざりし影徐かに曳く 波郷

枯れ幹に風蘭も蔦も青かりき 石鼎

枯木より猫が降りざり犬が居る 石鼎

暮るるよりさきにともれり枯木の町 林火

雪の上微塵も濡れぬ枯木立 静塔

遠景に枯木華やか急ぐなよ 鷹女

鶲来てとまる枯木に今日は雨 たかし

枯木の眺め代赭色して呼吸難 波郷

尾長の刻鳩の刻ある枯木かな 波郷

枯木揺れてもしづけさの乱されず 林火