和歌と俳句

秋元不死男

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獄を出て触れし枯木と聖き妻

獄門を出て北風に背を押さる

北風や獄出て道路縦横に

獄を出て尋めし北斗の旗凍る

寒燈の街にわが影獄を出づ

冬浜に夜の浪の譜獄出れば

子の寝ねて睫毛に冬灯獄出で来

獄ゆかへれば家の表裏に冬日立つ

獄を出て手触ると欠けし寒椿

獄出るや家に海山のの音

手錠なし納豆の糸箸に引く

獄を出て炬燵愛しむ膝頭

二年や獄出て湯豆腐肩ゆする

冴ゆる灯や獄出ても誦む東歌

獄出れば海と子の眼の澄める

獄を出て子ときて見るや冬の岬

煮凝を子と食ひちらし獄忘る

獄に痩せかへり冬日の衣に巻かる

獄裡の額灼かす波際の冬日もて

出獄し冬日の寵を崖と分く

獄を出て亀裂におどろくの道

出獄のわれに軍歌や冬の足

獄を出て運河十字に冬鴎

獄を出て枯野や新たなる墓標

獄を出てぶつかる北風征く両眼