獄を出て触れし枯木と聖き妻
獄門を出て北風に背を押さる
北風や獄出て道路縦横に
獄を出て尋めし北斗の旗凍る
寒燈の街にわが影獄を出づ
冬浜に夜の浪の譜獄出れば
子の寝ねて睫毛に冬灯獄出で来
獄ゆかへれば家の表裏に冬日立つ
獄を出て手触ると欠けし寒椿
獄出るや家に海山の冬の音
手錠なし納豆の糸箸に引く
獄を出て炬燵愛しむ膝頭
二年や獄出て湯豆腐肩ゆする
冴ゆる灯や獄出ても誦む東歌
獄出れば海と子の眼の澄める冬
獄を出て子ときて見るや冬の岬
煮凝を子と食ひちらし獄忘る
獄に痩せかへり冬日の衣に巻かる
獄裡の額灼かす波際の冬日もて
出獄し冬日の寵を崖と分く
獄を出て亀裂におどろく冬の道
出獄のわれに軍歌や冬の足
獄を出て運河十字に冬鴎
獄を出て枯野や新たなる墓標
獄を出てぶつかる北風征く両眼