北欧の船腹垂るる冬鴎
コントラバス嚢にかくれ枯野行く
旅立や冬蝶たたす妻の影
楽団の大き旅嚢に優冬日
桑枯るる中電柱を植ゑる声
寒負の顔うづく日本海に出て
添寝さながら冬浜に置く廃電柱
寒笛の鳶に日を置く河口かな
雪嶺にこめかみ痛む越の風
鳶の下冬りんりんと旅の尿
大足の田に入りし跡粗時雨
雪嶺や畦の焚火に誰もゐず
燐寸ともし闇の溝跳ぶクリスマス
悪評や垂れて冬着の前開き
冬蜂の尻てらてらと富士の裾
一湾に網羅の雪のたのしまず
跳ぶさまで止る聖夜の赤木馬
空乾く冬のレールにパンの耳
母は亡し冬越す蟻が指にくる
自転車で鮒来しよ春遠からじ
茶の花小粒わが死後に誰嘆かむや
干魚の歯の美しや漱石忌
枯野に日戸をあけて鳴く鳩時計
松籟の大揺れ止めりかいつぶり
寒雷や木彫仏は顔失せて