和歌と俳句

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

雪霏々と機械を拭いてもどるころ 林火

雪つけて一段たかき父の墓 林火

人住めば人の踏みくる尾根の雪 普羅

飛騨くらし人も歩かず雪つもる 普羅

燦爛と松明おけり雪の径 普羅

鳥とぶや深雪がかくす飛騨の国 普羅

吊橋の深雪ふみしめ飛騨へ径 普羅

兵を送る松明あらはるゝ深雪かな 普羅

鮎の炉の火かげとゞかず深雪の戸 普羅

駅凍てゝ曠野につゞく深雪かな 普羅

雪の野のふたりの人のつひにあふ 青邨

雪深く南部曲家とぞ言へる

起きてより後の雪積むことはやき 誓子

ましぐらに汽車過ぎもとの雪の景 誓子

雪の駅汽缶車おのが火屑踏む 誓子

雪霏々と数刻前と異ならず 誓子

門を鎖して来し妻の身の雪まみれ 誓子

しんとして深雪の視野のあるばかり 楸邨

一片の雪をくらひて雲に対す 楸邨

月さすか妻の留守なる雪のいろ 楸邨

彼の道に黒きは雪の友ならん 虚子

鹿苑をめぐりて水の雪日和 蛇笏

爐隠しに轡かかりて暮雪ふる 蛇笏

井戸水のつりこぼるるや雪中廬 蛇笏

雪片のはげしく焦土夜に入る 蛇笏

詣でたる新墓の前雪光る 蛇笏

隠棲の藪木の啄木にゆきぐもり 蛇笏

由布に雪来る日しづかに便書く 多佳子

肉親の表札古ぶ雪の門 蛇笏

降る雪を照らし汽缶車動きそむ 誓子

鴉過ぎ怺へこらへし雪ふり来る 多佳子

雪墜る音髪を洗ひて雪ふり来る 多佳子

猫歩む月光の雪かげの雪 多佳子

ねむたさの稚子の手ぬくし雪こんこん 多佳子

牡丹雪さわりしものにとどまりぬ 多佳子

死ぬ日はいつか在りいま牡丹雪降る 多佳子

雪窪に雪降る愛を子の上に 多佳子

雪しまき焦都しばらく雪に消ゆ 草城

港かけて雪の華やぎ降るに立つ 林火

牡丹雪その夜のつまのにほふかな 波郷

坂なして橋光りたり降出す雪 波郷

馬車馬をかはれ走らす降出す雪 波郷

旅かなし雪は木立の根方にも 占魚

降り出すや墓の雪装刻刻と 不死男

降る雪を天階に見ず畦に見る 不死男