和歌と俳句

前田普羅

絶壁に吹き返へさるゝ初時雨

ひとり居や映るものなき寒の水

吹雪やみ木の葉の如き月あがる

一と吹雪前山丸く月に澄む

襟巻きの中からのぞく夕日山

寒鯉や日ねもす顔を突き合せ

空谷のわれから裂くるかな

寒鯉の居ると云ふなる水蒼し

上つ毛や風花おろす山を並め

冬晴や水上たかく又遠く

水上は冬日たまりて暖かし

からまつの散りて影なし冬日影

飛騨人の手に背に冬の日影かな

人住めば人の踏みくる尾根の

飛騨の山襟をかさねて雪を待つ

飛騨くらし人も歩かずつもる

雪おとす樹々も静まり鷽渡る

空つかむ冬芽の瓜も雪を待つ

燦爛と松明おけりの径

肌すべる月におどろく雪の峰

樹々の雪蹴つて山鳥色つよし

吹雪濃し荒瀬のひゞき遠ざかる

犬行くや吹雪の中に尾を立てゝ

松明はまばたき吹雪通りけり