絶壁に吹き返へさるゝ初時雨
ひとり居や映るものなき寒の水
吹雪やみ木の葉の如き月あがる
一と吹雪前山丸く月に澄む
襟巻きの中からのぞく夕日山
寒鯉や日ねもす顔を突き合せ
空谷のわれから裂くる氷かな
寒鯉の居ると云ふなる水蒼し
上つ毛や風花おろす山を並め
冬晴や水上たかく又遠く
水上は冬日たまりて暖かし
からまつの散りて影なし冬日影
飛騨人の手に背に冬の日影かな
人住めば人の踏みくる尾根の雪
飛騨の山襟をかさねて雪を待つ
飛騨くらし人も歩かず雪つもる
雪おとす樹々も静まり鷽渡る
空つかむ冬芽の瓜も雪を待つ
燦爛と松明おけり雪の径
肌すべる月におどろく雪の峰
樹々の雪蹴つて山鳥色つよし
吹雪濃し荒瀬のひゞき遠ざかる
犬行くや吹雪の中に尾を立てゝ
松明はまばたき吹雪通りけり