和歌と俳句

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茂吉
空の雲うつろふなべに降積みし雪はまばゆし日を照りかへす

明るしや黒部の奥の今年雪 普羅

雪踏んで靴くろぐろと獄吏かな 蛇笏

年内の雪四つの日の夜半より 石鼎

牡丹雪に池辺の鶴もめでたけれ 石鼎

光り降る雪あり月のビルデイング 石鼎

物かげを降る雪ひらのしらべかな 石鼎

やはらかに降る雪浮め夜の木々 石鼎

枇杷の葉さやけしけさのうす雪は 悌二郎

バスしげし大路の雪に踏みまどふ 悌二郎

何もせぬ夕たのしさを雪ふり来 悌二郎

滝壺をしりぞきめぐる深雪かな 爽雨

銅蓮の掘られて噴ける深雪かな 爽雨

雪穴をくぐり嗽ぎし詣でかな 爽雨

異人墓地花束雪にうもれたる 三鬼

異人墓地十字架雪をよそほへる 三鬼

夜更の灯うつし硝子に雪つもる 彷徨子

雪片の流れ止まる玻璃戸かな 虚子

木の雪へ車ひびかし晴れて来る 亞浪

茂吉
けさの朝は信濃ざかひとおもほゆる遠山脈の雪かがやきぬ

桐畑それも景色や雪のふる 花蓑

かたぶきて陽のさす楢の宿雪かな 蛇笏

積雪に夕空碧み雲の風 蛇笏

樺の雪幽らめて樅の巨陽いづ 蛇笏

雪ちらり寒紅梅の紅ほどに 石鼎

黄なる煙水色の煙雪に炊く 石鼎

たびら雪生むもしばしや檜葉の雨 石鼎

雪ひらををりをりうみし小雨かな 石鼎

雪ちらりしづけき雨とおもひけり 石鼎

海山の相搏つところ雪の駅 楸邨

茂吉
けふ一日風ふきしきてゆふぐれのうすき光に雪の降るおと

えにしだの細きにも雪つきそめし 亞浪

わが他にぬかづく人や雪の宮 みどり女

白妙の雪の傘さし人きたる 淡路女

窓の雪日の暮れかねてありにけり 淡路女

月光に深雪の創のかくれなし 茅舎

月天へ雪一すぢや松の幹 茅舎

雪の原犬沈没し躍り出づ 茅舎

足音のいつかひとつに雪の道 汀女

足あとの雪の大路を妹がりへ 草田男

雪降りてまこと楽しきまどひかな 立子

中庭の雪は静かにゆるやかに 立子

漸くに遠山雪の景色かな 立子

楼門のうち明るき深雪かな 立子

夜半さめてこの静けさや雪ならめ 立子

桑畑の細枝のみ見ゆ深雪かな 立子

よりどころなき眸に夕べ雪ふれり 桃史

雪ふれり酔ひては人らみなやさし 桃史

雪粉雪受話器をながれ来たるこゑ 鷹女

馬が待つ雪の積荷のまだなかば 汀女

信号機青のまにまに雪の貨車 汀女

雪くろくよごれ砲兵陣地なり 素逝

観測は屋根の傾斜の雪に臥し 素逝

戦車去り雪ふり古き幾山河 桃史

椅子に凭る雪白くなるしまらくを 亞浪

曳きいでし貧馬の髭に雪かかる 蛇笏

旅人も礎石も雪も降り昏るる しづの女

雪霏霏と雪の傘突き霊迎ふ 不死男

霊迎ふ脂粉雪の脊わが前に 不死男

雪の大路猫燦爛と走りをはる 楸邨

船窓に雪白き島近く過ぐ 波津女

噴泉の裸女の羞恥に雪墜るか 槐太

雪見れば夜に来といふを待ち難き 槐太

雪降れば夜は来といひて昼に来ぬ 槐太

紐解くになほ天霧し雪降り来 槐太

兵隊の街に雪ふり手紙くる 桃史

雪の午後長き戦の世の紅茶 波郷