和歌と俳句

鈴木花蓑

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初詣誰にともなき土産物

どんよりと曇りし春の月明り

どこへでもつき添ふ母や針納

ひそやかに話しての品定め

野遊や夕餉は連れの友の家

杉襖その上に凧いと高し

白椿赤椿幹黒くして

野の辛夷夕日かゝりて見え難し

去りがてにさまよふ鳩や夕桜

ちらつきし雪やみにけり桜草

夏の月片くらがりの芭蕉かな

豆飯を炊けと主の所望かな

人形の浴衣の女憎からず

雨やむを待ちて仮寝の籠枕

鏡見てべつかつこうや洗ひ髪

かくれたる牡丹うつりて潦

宵浅き月かくれゐる若葉かな

だんだんに縁側のよくなりぬ

今日の月多摩の濁りを惜しむのみ

の中よぎりて見えし尾長かな

出でゝ待つ妹が出支度秋日和

誰となく代りて線香花火かな

庵の妻人手は借らず萩を刈る

芒の葉透き明りして虫行燈

新宅のまだ整はず秋刀魚焼く

としどしや井桁の上に桐一葉

つみかけし夕立あとのさゝげつむ

月ありて夕日うするゝ芭蕉かな

稲光真昼の如き芭蕉かな

の宿白き襖の貧ならず

に客ある日は勤め早帰り

萩の雨かうも降つては来られまじ

明け方に降りしぞ霜の上

桐畑それも景色やのふる

寒月や藪を離れて畑の上

日向ぼこかうしてゐても腹が減る

一枚は大鏡餅餅莚

名にし負ふ雪の山々スキー行

月の夜の明け白みたる千鳥かな

山茶花や夕日の枝に花多き

をしみなく照らせる月や石蕗の花

枯木中落ちかゝる日のちらとあり

ぬば玉の夜の枯木の上の不二

鳩舞へる行手の宮や初詣

ぬかづきて我も神の子初詣

鵜の一つ恵方はるかに浮き沈み

日々の勤めとなりぬ鳥総松

春の風邪誰も見舞つてくれぬなり

はるかなる秘苑の雉子の聞えけり

客出入ありつゝの夕まぐれ

庭のほころび月もありそひぬ

百花園移り変りて梅はなし

梅の枝持つて遠路を女客

すつすつと滝の影さす猫柳

誰彼に無沙汰ばかりや蕗の薹

ちらちらとちる花も見え花の雲

さるをがせ大石楠花にかゝるあり

日々に明けて悔なし蚊帳の中

蚊火煙月の襖にうつりけり

庭のもの青いちぢくや冷奴

霧の中翡翠飛んで失せにけり

塵取りの手にも夕べの蜘蛛の糸

朝の土急いでわたる毛虫かな

人々の中の主は牡丹園

玉芭蕉一枚とけて立烏帽子

紫陽花の浅黄は宵にふさはしく

待宵の月見て明日の下話

軒の古き世に似てしぐれけり

神棚に朝の灯あげて紅葉狩

夕焼けて火花の如く飛ぶ

庭の帰れば暮れて見る日なく

菊の月今宵あたりは霜おりん

ほろほろとこぼれもぞして葱の

雪の客先客も出て迎へけり

おでん屋の看板娘如何にせし

日向ぼこして聞き分くる物の音

行く年の恥らひもなく干し襁褓

雄阿寒や鷹の子一つ舞ひ習ふ