和歌と俳句

行く年


行年や仏ももとは凡夫なり 漱石

行く年や膝と膝とをつき合わせ 漱石

行年を家賃上げたり麹町 漱石

行年を妻炊ぎけり粟の飯 漱石

行く年や猫うづくまる膝の上 漱石

行年の松杉高し相国寺 虚子

行年の往来皆乗る渡舟かな 喜舟

行年の人や嶮しき秤の目 泊雲

行年の足場にかゝり菰一枚 石鼎

行年や草枯れてゐて常の道 石鼎

ゆく年の調度の中の覆鏡 石鼎

ゆく年の忙しき中にもの思ひ 久女

行年や這入りて見たる邸鶴 青畝

行年や画債の中の金屏風 石鼎

行年や我家に安き旅鞄 橙黄子

年行くや耳掻光る硯箱 普羅

行年や庭木に伽羅を植ゑ込みて かな女

行年や一樹の柚の下を掃く 秋櫻子

逝く年や冥土の花のうつる水 蛇笏

行く年やかけながしたる芭蕉像 蛇笏

大川に煤竹流れ年はゆく 青邨

行く年の恥らひもなく干し襁褓 花蓑

ゆく年のひかりそめたる星仰ぐ 万太郎

行年や歴史の中に今我あり 虚子

行年のくろかみくろくねむるなり 耕衣

いくさ厳にまたうつくしく年は逝く 青邨

年ゆくや山月いでて顔照らす 蛇笏

行く年の月ひるのごとてりにけり 石鼎

逝く年のわが読む頁限りなし 青邨

囚人に髪刈られ年逝かんとす 不死男

行年の大河をはさみ宿二つ たかし